幽玄怪舎 依藤幸夢店

創作者依藤(えとう)の地道に感じた事や身の回りに起きたことを綴るゆったりしたブログ

ワンライお題「誕生日」

「明日は咲夢(さくら)の大切な日」

 そう行って僕の目の前から姉貴は姿を消した。けれどもやはり、僕には見つかるかのごとく行く先々で同じ物を手に取っている姿を見る。

 少しばかり前に謎の奇縁で拾ったお狐様は油揚げを用意しろと僕の服を咥え、同じタイミングで着いてきたお猫様は僕に猫缶を用意しろと猫パンチを繰り出してくる。

 不思議と不快ではなく、『用意してあげよう』という気持ちにさせてくる。

 何の気負いもなく、多分喜んでくれるだろうなと咲夢へのプレゼントを用意して、僕は姉貴を探す事にし、旧曽祖父宅である現僕の家となっていてなおかつウチの会社の本社となっているあのいつか何処かで見た風景の様な街に戻ってきた。

 僕がこの街に戻ってくる事などそう多くない、現住所がここに在るのはいわゆる日本の法律で現住所を定めなくては身分証が持てないからであって、僕に住所というものは必要ないと考えているから、戻ってくる事がそう多くないだけであって、この街が嫌いだとかそういった事は一切無いと考えている。

 だけども姉貴からは『この街が嫌いだから寄り付かない』と思われているらしく、何かにかこつけて僕をこの街に呼び戻そうとする。

「あぁ、やはり姉貴はバカだなぁ」

「ありゃ、やっぱり僕が此処に居るとバレてしまうかい?」

「勿論だとも、末っ子を一番可愛がっていた曽祖父の墓に誕生日プレゼントを聞きに行かない姉が何処に居ると思う?」

「キミは来ないと思ったんだがな……」

「そういうわけでもないし、別にこの街が特段嫌いというわけでもないよ」

 ただ単にこの街に寄りつくと曽祖父と可愛がられていた咲夢の事を思い出すからあまり近づかないだけ。という言葉は胸の奥に仕舞い込んでしまえとばかりに答えを返す僕は余りにも子供すぎる気がする。

「穏やかな顔をして咲夢の”偶然”居ないタイミングを見計らうかの如く亡くなった曽祖父を想うと、曽祖父に対して咲夢にあげたいものを聞くべきかなと思って僕は来たんだけど、セナは一体どうして此処に?」

「姉貴、僕に咲夢を押し付けて最期を看取ったんだ、僕に咲夢にあげたい物を聞く権利は僕にしか無いんじゃないかな?」

「……その言葉を言われると、僕は何も言えないじゃないか」

――戀姉! セナ姉! 此処に居たんですか!

「おや、咲夢に見つかりそうだね。僕らも此処から離れようか」

「そうだね、あの子がショックの余り忘れてしまいそうになっている曽祖父の墓の位置をバラす訳にはいかないからね」