幽玄怪舎 依藤幸夢店

創作者依藤(えとう)の地道に感じた事や身の回りに起きたことを綴るゆったりしたブログ

ワンライお題「懐かしい匂い」

「なんだろうこの匂い」

 ふと、気付いたらなんだか嗅いだことのある匂いがする場所にカブを走らせていた。

 緩やかなカーブ、ふと細い路地に目をやれば何処か懐かしい感じのする石畳が続く道。お世辞にも綺麗とは言えない公園。

 この風景を何処かで見たことのある気がしてならない。そう思い僕はカブを近くの駐輪スペースに停めて、ゆっくりと辺りを歩く事にした。

「んー、なんだろうこの『既視感』というか、『見たことあるという』感覚は不思議だな」

 小さい頃に住んでいた街はもっと薄汚れた暗い場所だったはずだし、姉貴達も僕と同じ街で過ごしている筈だから、まず此処を知る術(すべ)がない……。

――お姉ちゃんまってー!

――こっちだよー!

 子どもたちの元気に遊ぶ風景、僕が今住所を置いていて、姉貴達が住んでいる街ではまず見ない光景だ。

 僕等がやった記憶も無い遊びをしているのに、何故か『懐かしい』と感じる子どもたちの遊ぶ姿。

「セナ姉! こんな所に居ましたか……」

「おや、咲夢(さくら)じゃないか、一体全体どうしたんだい?」

「どうもこうもありませんよ……。今日は曽祖父の葬儀を取り仕切る戀(レン)姉の手伝いでこちらに何時迄に来てくださいと連絡した筈ですよ?」

「ありゃ、過ぎていたかい?なんだかこの風景が何処か『懐かしい』感じがしてね」

「そりゃあそうですよ、だって私達一度だけですが、曽祖父がご存命だった頃に夏休みはこの街で過ごした事がありますから」

「そういう事か……。この懐かしい匂いというか、どことなく感じる既視感というものは」

「そういう事です。じゃあ戀姉が待っていますから、行きますよセナ姉」

 そう急がなくてもいいじゃないか。と咲夢を呼び止める僕の声を無視するかの如く、ずんずんと教えたワケでもない僕が停めた駐車スペースにカブを取りに行く咲夢、普段から咲夢自身もバイクを乗り回す為に、あの子が触っても何ら心配は無いけれど、やはり”僕”が曽祖父から引き継いだカブなんだから、僕が持っていってあげて、それで葬儀に参列させてやろうと思い、僕は少し遠くなってしまった咲夢の背を慌てて追うことにした。

――その後無事、葬儀に晶(アキラ)に頼んで持ってきてもらった、曽祖父から受け継いだ古い車も僕自身が受け継いだカブも参列させることが叶ったので僕としては、最期に曽祖父へ僕なりの考える最高の孝行が出来たんじゃないかと思い、曽祖父が笑顔であっちの世界で僕らを見守ってくれる事を願って見送る事が出来た。