幽玄怪舎 依藤幸夢店

創作者依藤(えとう)の地道に感じた事や身の回りに起きたことを綴るゆったりしたブログ

依藤セナの短編(無償公開)

短編集をかき集めました。

 

「チョコレート、ボールペン、炭酸ジュース」

 

 

「セナ姉おはよう、朝からCCレモンとはまた珍しい物を飲んでいるね」

「お、咲夢(さくら)じゃん。久々に会えたね。元気だった?」

 僕は普段からキャンプ場を巡ったりして、家の事は咲夢に頼んでいる状況のため、咲夢はもとより、姉貴にすら会うことがない。たまたま、会社に出社したら、同時刻に出社してきた姉貴につかまって、炭酸ジュースを渡されてしまったので仕方なく飲んでいる。

「あれ、咲夢って姉貴がなんで炭酸飲めないのか知っているっけ?」

「いや、知らないよ? というか、戀(れん)姉って炭酸飲めないんだ」

「昔さ、姉貴が炭酸を寝ぼけて振ってから飲んだらしくて鼻から逆流起こしたのさ」

「は? 炭酸を振った?」

「姉貴ってさ、いつも眠そうでしょ? だから振ったみたいでね。それで、苦手意識を持ったみたい」

「そんな事、有ったんだ」

「うん。咲夢ってこの後暇かい?」

 運よく、妹の仕事がなければ、遊びに誘おうかなって思ってる。

「今日は戀姉の秘書紛いな事も無いし、暇な一日だよ。どうして?」

「ツーリング誘おうかなって思ってね?」

「セナ姉が私を誘うなんて珍しいね、……あれ?晶さんは?」

「昨日の夕方から撮影で今頃ロンドンさ」

 晶とご飯を食べた時。一か月の予定をすり合わせしたりするんだけど、翌日から海外渡航しての撮影が続くらしい。

「また海外ですか? 人気者も大変ですねぇ、あれ? セナ姉の仕事は?」

「僕は僕で国内移動で撮影がいくつかあるんだけどそれは来週からだよ」

 とりあえず、咲夢のバイクを動けるようにメンテナンスをする事にした。何やらここ数か月、エンジンすらかけてないらしく、動かない可能性が高いとのことなので、僕のメンテ道具が詰まったガレージに移動する。

ん? マネージャーから電話だ。晶の仕事が先に出発したスタッフからの連絡で急遽トラブルで行かないまま予定空く事になった

「わかりました。でも今日は僕、妹とツーリングするんで、すみませんがお願いします」

 晶には僕としても会いたいんだけど、今は妹を構うための事をしているから会わないけどね、とか言ってるそばから晶から連絡来たけど、僕は一度決めた事は曲げないから、咲夢を優先する。

 メンテナンスが無事終わり、咲夢のバイクが無事動く事を確認して、今日の予定を考える。

「咲夢はどこ行きたい?」

「私は何処でもいいよ? あ、でもあそこ行きたいかも」

「ん? 何処だい?」

秋葉原か横浜にあるあそこ!」

お好み焼き屋さんか、お昼にちょうどいいんじゃないかな」

 僕が好きでよく行くお好み焼き屋が横浜と秋葉原にあるから、どっちも良く行くんだけど、今日は時間あるし横浜の店舗に行こうかなんて、咲夢と相談をする。晶から僕より妹を優先するんだね……なんて連絡が来てるけど僕の性格を知っていれば構ってほしい的な事言ってくるのもわかる。でも何もしない。

「じゃ、横浜に向けて出発しようか」

「晶さんはいいんです? さっきから鬼のように連絡来てますけど……」

「いいの、今日は咲夢と遊ぶ日って決めたから、咲夢とデートするんだよ?」

「分かりました。いつも通りのルートでいいんですよね? 私先行します」

「了解、じゃあお願いね」

 横浜スカイビルに向けて国道一号を使うルートでのんびりと咲夢に前を走らせる形で動き始めた。

数時間走って目的地の駐輪場にバイクを並べて停めた。ふと駐車場を見るとここに居るはずのない車が停まっていた。

「ねー咲夢、あの車の前に居る人ってさ……」

「あ、やっぱり晶さんですよね」 

「うん、なんでここに居るんだろ。いや、仕事が無くなった分今日から晶も休みだけど……」

「戀姉が場所教えた? いや、あの人は何処と何処なら行く可能性ある。程度でしかないはずだし……」

 そうこうしている内に晶が車から離れて僕らの方にやってきた。

「おはよう、セナ。今日もいい天気だね」

「おはよ、晶。で、なんでここに居るのかな?」

「おはようございます。ここに居ないはずの晶さんがいるのはちょっと不思議なんですけど。どういう事でしょうか?」

「戀さんに聞いた……って言っても信じないか、セナっていつも咲夢と遊ぶときここか秋葉原に行かない?」

「行くね、でも秋葉原に行かずにこっちに来たんだね。それは一体どうしてかな?」

「セナのマネから聞いたんだ、今日は咲夢とツーリングするって言ってたいから。ならこっちかな? って思ったからこっち来た。ダメだったかな?」

「ダメじゃないよ」

 偶に僕の彼氏くんは勘が良すぎる瞬間が来る。いつも飄々と僕の心をつかんで離さないのに、気が付いたら一段階上の絡め捕り方をするから心臓に悪い。

 

お互いがお互いについて語るインタビュー 

 

「セナについて」

 

 ふと、セナについての話を振られた。だから僕は語ろうと思う。

 彼女は透き通るような、それでいて何処かくすんでいる金髪を無造作な形で伸ばしている。髪の長さはそうだな、肩ぐらいまでの長さ、何時もバイクのヘルメットで癖がついているけども、彼女はそれを嫌って、手櫛でいつもボサボサに戻している。

彼女の瞳の色は有名な宝飾ブランドみたいな明るい色というわけではないんだけどね。普通の青より、もっと澄んでいてきれいな青をしている。見つめていて飽きない綺麗な瞳をしていると、僕は思うよ。

彼女の服装について? 

いつも彼女は白シャツに革ジャンを羽織っている事が多い。触れる事が少ないかもしれないが、アイドルをやっていたのに、フリフリなアイドル特有の服装をした事がないらしい。

いつもかっちりとした衣装を着ているイメージが強い。実際、セナ自身が着飾る事が好きでないらしく。アイドルらしいフリフリの衣装の時は仕事を蹴るらしい。というのは業界では有名だった。

「晶について」

 

逆に僕に対して晶についての話を振られた。同じく僕も語ろうと思う。

晶の髪色は薄い紫色で綺麗なさらさら髪でね? 日光に当たると薄いピンク色になる魔法の様な綺麗な髪をしているんだよ。首が隠れない程度のショートカットでずっと撫でて梳きたくなる癖を持つ髪なんだ。

彼の瞳についてかい?

彼の瞳はそうだな、見つめているとスゥーっと吸い込まれてしまう、不思議な瞳をしているんだよね。なんていえばいいのかな? パステルピンクより少し濃いピンクをしているんだけど、その綺麗な瞳の中に宇宙を持ってる。そういう感じかな? ……なんか、晶の瞳色の話をしていたら、見つめたくなってきた。終わっていいかな? え、だめ?

彼の服装についてか。

彼の服装……僕より遥かに女の子らしい服装をしているよ。大体、ワンピースにパンツ姿が多いかな? 僕と似た感じで白系統が多いけども、可愛い感じで纏まった服装をしているね。

男性らしい、骨ばった骨格を隠す感じでふわふわひらひらしてるのも、可愛い服が多い理由かな?

これ位でいいかな、いい加減ちょっと晶に会いたくなってきた。控室に居るのは知っているんだ。会ってくるね。

 

新車購入

 

「やあ姉貴、いきなり呼び出されたけど、今日は何するんだい?」

「セナ、今まで晶君が大切にしていた物は何でしょう? 今日はそれを買いに行きます」

 晶が大切にしていた物? なんだろう? 車かなぁ……。

「正解は、セナの新しい車を購入するよ」

「僕が新しい乗り物を必要としていると思うかい? 不要だよ、カブ達があるからね。晶の車使えば大きい荷物だって運べるからね」

 姉貴の会社での僕は役員階級を持っているし、他の役員達は確かに高級車乗りまわしてる。

「必要だよ? セナにも部下を持ってもらう事にもなるから、飾りじゃなくなる事になるし?」

「は? 僕が部下を持つって何?」

 うちの姉貴はとうとうボケたのか? それとも、僕をなんかのドッキリに嵌めたいのかな?

「お? セナが珍しく混乱しているね……?」

「そりゃあそうだろうよ、姉貴。ボケた? お飾りに部下を持たせるって本気?」

「これはまた直球に聞くねぇ」

「まぁ、僕に部下を持たせようと思っているなら僕も車買いますかね。いやさ、欲しい車は目星付けていたんだけどね? 必要ないと思っていたから買わなかったんだ」

 果たして会社名義で買うか、僕個人名義で買うか、そこが悩み所。社用で使う事が増えるならば、会社名義でもいいと思うんだけどね。

「あ、車両購入費用は会社持ちにしてあげる。名義はセナの名前か晶君でいいと思うよ。

「ありがたいね、良いのかい?」

「良いの良いの、じゃあ、ディーラー行こうか」

 姉貴の運転でディーラーに行って、契約と一括で支払いを済ませて、車種を選んだときに姉貴が驚いていたのが気になった。

「姉貴、なんか僕が選んだ車種で驚いていたけども、一体どうしたんだい?」

「この前ね、同じく晶君に車買わせたんだよ」

「おや? 晶もとうとう車を買い替えたんだ、それで何故姉貴が驚く事になるんだい?」

「晶君が指定して、購入した車はね、Audi A8なんだ。セナが契約したのは?」

「僕が契約したのはAudi S8だね。あぁ、そうか同ブランド別車種だから驚いたのか」

「そういう事、仲いい事はいい事だけど、仲良過ぎじゃないかな?」

 姉貴達も仲良し夫婦なんだから、別に構わんと思うんだけどなぁ……。

「というか、うちの家にAudiが二台並ぶって事だよね? 威圧感半端なさそう。僕なら近づきたくないよそんな家」

「これで、セナもうちの会社に貢献できるよ!」

「お飾りの役員から卒業か、頑張りますかね。姉貴、いつ僕に部下を付ける気なんだい?」

「まぁ、暫くしたらまた呼び出すから、その時はよろしくね?」

「姉貴の事だ、忘れたころに言ってきそうで今から怖いよ」

「仕方ない、お姉ちゃんだって社長業が忙しいからね」

実際にアイドル二人を僕の部下にするとは思わなかったけど、僕が今回購入した車を使う事は本当に暫く来ることがなかった。

 

≪曲名:語るなら未来を≫

 今日は結婚式の打ち合わせで衣装を決める大切な日。

 そんな日に、晶はどうしてか僕を怒らせたいようだ。

「ごめんってば、セナにタキシード着て見せてほしかっただけで、悪気はないんだよ?」

「それで、僕にタキシードを着せてどうしたいんだい? それとも何かい? 僕に胸がない事を馬鹿にしているんだろう?」

「セナ、僕にそんなつもりは毛頭ないんだ。ただね、セナに似合うと思ったから……ごめん」

「まぁ、披露宴の余興で僕らが着ている物がお互い逆なら面白いかもね? 僕がタキシードを、晶がドレスをってすれば、お互いがお互い楽しめるし、違和感もなさそうだし?」

 そこからはとんとん拍子で着る衣装が決まって、結婚式での僕はプリンセスラインのシルエットを持つシンプルなドレスを着る事になったけど、逆に晶は披露宴でエンパイアラインシルエットのパステルピンクカラードレスを着る事になった。

 そんなにふわふわしていなくてもいいと思ったんだけど、せっかくの記念だからと一切晶が譲らず、着せられることになった。

「式は何時にする? 定番的に6月?」

「えへへ、セナ。ありがとうね。時期はどうしようか……」

「晶の好きな時期と好きな日に合わせるよ。晶の方が忙しいし、ね?」

「ありがとう、でもこういう時ぐらいはセナの希望でもいいと思うよ?」

 僕らも忙しすぎて、プランナーの人も僕らに合わせて動いてくれたんだけど、流石にドレスとタキシードを決める時だけは二人で来ていただいて、決めてくださいと言われてしまった。

 ≪語るなら未来を≫をモットーに結婚式の様々な事柄を決めていきつつ、招待客リストの選別も始めなきゃっていう悩みが増えた。お互いがお互いアイドルをやっているために、人付き合いが増えて、呼ばないと失礼な人もいれば、呼んだら失礼の方も居るから暫くの頭痛の種になりそうだ。

「そういえば、セナは同業以外で何人ぐらい呼ぶの?」

「十人も居ないんじゃないかな? ほとんどこの仕事始めてからの知人だから。そういう晶は何人ぐらい呼ぶのさ?」

「うーん、僕も十人ぐらいじゃないかな?」

「なんだ、晶も僕と同じじゃないか、お互い一般の友人少ないねぇ」

「この馬鹿みたいに忙しくて不規則な生活に付き合ってくれる友人はやはり同業が多いからじゃないかな?」「さ、もうちょっとしたら僕は撮影行かなきゃならないから先行くね? 後で晶自分でこれかな? っていうウェディングドレスの試着した写真送ってね! じゃ、プランナーさん、ありがとうございました。また次揃う時迄に式の日決めて来ますねって、電話来ちゃった。晶またね! バイバイ!」

 

 

 

「晶、僕には昔叶えたい夢があったんだよ」

「夢? いきなりどうしたんだい?」

 番組の企画でスカイダイビングをする事になって、スカイダイビングで自由落下をする高度まで上昇中に撮影陣から雑談してる姿を取りたいとの事でカメラを回してもらいながら晶と雑談をしている最中にふと思い出したから話題に上げた。

「セナはなんかリアリストだと思っていたよ」

「子供のころは皆誰しも夢と希望に生きるものさ」

「そういうものかな? で、セナの夢ってなんだったの?」

「ん? 飛行機のパイロット。セスナとかの小型機のやつをね」

「あー、でも叶えれるんじゃないの?」

「……実は半分は叶えてるんだ。でもね、飛行機がないんだよね」

「セスナの免許は取ったんだ……。買う?」

「晶の思考は相変わらず僕優先なんだ。買ったところで置き場がないよ?」

 流石に姉貴のプライベートジェットの横に置いとくわけにもいかないし、残念だけどこれは免許取っただけで満足するべきなんだよね。

「じゃあ、これ飛んだ後にさ、許可取って僕を横に載せてセナがセスナ操縦してよ。カメラさん後ろに乗せたら面白いやろ?」

「いいけど、許諾降りるのかな?」

姉貴の会社とはいえ、厳しいものがあると思うんだ。

「晶、全ては降りてから考えようか?」

「そうだね」

ムササビスーツでスカイダイビングをするのは流石に可笑しいでしょぉぉぉおおおおって晶の叫び声を聞きながらパラシュートを背負って、晶を追いかけている僕は生身で鳥になった気分を味わえて、なかなかいい経験が出来たなぁって思いつつ、いい加減パラシュートを開かないといけないとインストラクターからの無線を聞き、慌てず晶を急降下で捕まえに行く。その姿をインストラクターと飛んでいるカメラマンから鷹が急降下して獲物を捕らえに向かってるみたいだって突然言われてちょっと笑ってしまった。

 

――まぁ、間違ってはいないかな。晶は僕の獲物だし――

 

 結局、許諾が下りて、晶を横に乗せて空中デートが出来た。後ろにカメラマンと操縦士を乗せてという邪魔は居たけどね?

「ありがとう、セナ。楽しかったよ」